ロシアンメソッドって何?(4)~手の中の意識~
基本のタッチにおいて、指の関節が打鍵の衝撃に耐えうる状態にあることはとても重要です。
指を動かしたり、力を溜めたりすることの出来る筋肉にはいくつかあります。
人間は、動作するときに、まず大きな筋肉を優先的に使う習性があります。
ピアノを弾くときに、指を内側に動かす動作を使用とすると、とくに訓練をした人でなければ、主に手首と肘との間(前腕)にある屈筋、そして手のひらの内側にある屈指筋が使われます。
指の中には筋肉がないので、屈指筋を鍛えることで、腕を自由にして俊敏な動きを獲得しようというトレーニングは一般的に多くみられます。
ここに、腕の重みを使った打鍵の概念はほぼありません。
屈指筋が神経伝達スピードの向上により、俊敏な動きを実現させたとしても、要求するクリアなタッチが屈指筋など、手の中の筋肉で実現可能な強さを上回る打鍵を求める時には、関節を固める必要があり、前腕の筋肉に頼ることになります。
肘や手首が固まるので、その状態で腕の重みを乗せようとすると、打鍵が深くなり、音が割れやすくなってしまいます。音圧にものを言わせるような演奏にもそれなりの説得力と上手さはあります。
俊敏でビタビタとした大きな音で、強靭なタッチを目指すのであれば屈指筋を鍛え、神経の伝達スピードあげるためのリハビリをすることが効果的でしょう。
私自身もかつてはそのような方法で指の独立をあげるためのトレーニングに苦心したりもしました。お陰で演奏上助けられたことがあるのも事実です。
その一方で、豊かに響く音を目指すためには、こうした筋肉ではなく、指の付け根を内側にすぼめるような動作に使う、虫様筋を使い指を固め、手全体で打鍵するのが良いです。
この筋肉を使い、手のひらを内側にすぼめるように力を溜めると、指が固まり、関節が外側に折れにくくなります。
ちょうどこのような状態です。
この筋肉を使うことで、打鍵の際にしっかりとした指を準備でき、尚且つ手首や肘、前腕を自由な状態に保つことができます。この力は基本的に演奏中は保ち続けます。音色を手の中に常に貯めて逃さないようなイメージです。
これは、ホチキスの芯の箱ですが(笑)、このような小さな物を全指の付け根で持ってみると良いでしょう。(出来れば丸いものがオススメです。5指の付け根が均等に力を加えていることを感じられるので)
このときに肘や手首が固まっていることが確認できた場合は、違う筋肉を使っていることになるので力を抜いて、
虫様筋だけを使えるよう意識してみてください。
(この動作によって虫様筋を鍛えていくことで、指の関節が弱い人でも、無理のない打鍵で、豊かな響きを獲得することができます。)
この状態が、打鍵の準備ができている状態です。
この状態のまま、指先は一切動かさずに、いずれかの指で鍵盤の底を狙ってゆっくりと腕全体を下ろしていきます。
手の形や作りは、ひとりひとり違うので、写真の手と同じようにするには皆が皆微妙に違った筋肉を使うことになるので、大事なことは形を真似る事ではなく、虫様筋を使い、指の付け根を内側にすぼめることで、指を硬直状態にし、手首と肘を完全に自由にしてあげることです。
また、打鍵にはどの指を使っても構いませんが、大事なことは、鍵盤に触れる指一本を意識しないことです。
一本を意識してしまうと、肘や手首が途端に固まってしまうのです。
あくまでも手全体が塊のようになって、たまたまその一つの音に着地し、腕の重みが乗っている、というようなイメージができると良いでしょう。
腰は執拗に丸めず、耳もなるべく正面を向くように、顔は下を向きすぎたり、鍵盤に近づいたりすることがないようにします。
また鍵盤で音を発するのではなく、音は遠くから飛んでくるようなイメージすると、耳が響きをキャッチできる状態、
すなわち「開いた」状態になってくれます。
そして、打鍵の瞬間に鍵盤や動作に向けられがちな意識を捨てることで、脳みそに空き容量ができます。その容量を使って、今まさに出そうとしている音をイメージしてみてあげてください。
レッスンで、
耳を開いて、頭をあけて、などといった不思議な(?)声掛けを時々耳にしたことがありますが、
このような音づくりのために役立つイメージ作りを補助するものなのです。
また、始めのうちは努めて指を独立した動きで使わないように意識することで、この基本のタッチによる打鍵感覚がより掴みやすくなると思います。
是非試してみてください。
続いて、
ロシアピアニズムとは(3)~深い音~とロシアピアニズムとは(4)~深い音のメカニズム~
では、「深い音」についてお話しています。
この基本の型を使い、「深い音」を発音するための具体的な方法についてお話しています。打鍵の入口と出口の意識の持ち方で打鍵はさらに向上していきます。興味のある方は、どうぞご一読ください。
是非、試してみてください。
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ロシアンメソッド、アウェアネスメソッド
松岡優明
写真のように虫様筋を使おうとすると他の筋肉も意識がいってしまいます。
慣れるしかないんでしょうが、何かコツはありませんでしょうか?