本当の脱力を知っていますか?

「脱力」と「力を抜く」ことは違う!?

ピアノ演奏において「脱力」というのは、とても重要なキーワードであるように思われています。

しかし、脱力、脱力と言われる一方で、本当の「脱力」が

「不必要な力を抜き、代わりに正しい力を入れること」

であることを解く人は少ないように感じています。

 

もし、体中の力が脱力してしまえば、手を鍵盤にかざすことの前に、まず椅子に座った姿勢を保つことも出来ないでしょう。

バレリーナが、まずはじめに 「正しい立ち姿勢を学ぶこと」 と同様に、
ピアニストがまずはじめに学ぶべきことは 「正しく座ること」 なのかもしれません。

 

脱力の第一歩

正しい「脱力」の第一歩は、それが
「不要な力を抜き、代わりに正しい力を入れること」
であることをしっかりと理解することです。

私たちの体は非常によく出来ています。

というのも、もしドアに取り付けられた「ちょうつがい」がしまった状態でカチカチに固まってしまっていては、
そのドアを開くことは出来ません。

しかし、私たちの体では、ある一部分が固まってしまっているために「ある動作」が上手くできなかったとしても、代わりに他の部分でその動作に必要な力を補うことが出来ます。

 

これはとても便利である一方で、ピアニストやスポーツ選手、ダンサーなど ある一つの動きを普通の日常生活では考えられないほどに頻繁に行う人たちにとっては、注意が必要なことでもあります。

 

本来であれば力ませる必要のない箇所を力ませていたり、無理な姿勢や動きを続けていれば、

徐々に体のどこかに「不調」や「痛み」が出てくることになります。

ピアニストに多く見られる体の不調をいくつか挙げるならば、それは 腱鞘炎や肩の凝り、腰の痛み などでしょうか。

 

動きの「質」を見直せば、パフォーマンスは飛躍的に上がる

「動き」の一つ一つには その効率性、そして体の構造上「自然」であるか
といった観点から「質」の良し悪しを見出すことが出来ます。

手を上に上げる動作一つにしても、
上腕の筋肉を使ったり、あるいは肩の筋肉を使ったり、また背筋を使って
その動作を行うことができるんです。

こうした「動きの質」を見直すことで、
体に無理のない「安全な奏法」を体得できるだけではなく、
動きが圧倒的に効率化することで、演奏技術の格段の向上が見込めるのです。

 

しかし、間違えてほしくないのは・・・

必ずしも「安全な奏法」が「良い演奏」に結びつくわけではない。

ということです。

これは逆もしかりで、あなたが「最上級に美しい」と思う演奏が、必ずしも良い「動きの質」に支えられているとは限らないのです。

 

多くの学生や演奏家にしても、
音楽的なイメージや理想が明確であればあるほど、その分「体を無理に使ってしまう」傾向にあるのも、また事実なのです。

そして、実際に多くの名演奏家たちが、体の痛みや故障に悩まされて続けてきたのです。

 

必要な力までを抜くことが、脱力ではない

脱力の第一歩が「不要な力を抜き、代わりに正しい力を入れること」

であることは始めにお話しましたが、

ある動作を行うために使う筋肉を精査することこそが「脱力の本質」
であり、「力を脱する」ことを、闇雲に行うことでは決してありません。

音楽において 和声学やリトミック、ソルフェージュや作曲法を学ぶことがその成長を助けてくれるのと同様に、

ピアニストならばピアノを弾く動作を如何にして行うことが、より自分の表現をしやすくしてくれるのか
を知ろうと努めていることはとっても有益なことです。

 

では実際にどうやって「動きを精査する」のでしょう?

 

力が入らないほうがいい箇所を知ること

「動きの効率の悪さ」について少しお話してみたいと思います。
まずは、恐らく多くの人が気になっている「よく回る指」について触れてみたいと思います。

近年コンクールに出場する子供たちや親御さんを見ていると、そのほとんどの皆さんが
「指周り」や「音の粒立ち」 を非常に気にかけていることがわかりました。

多くの場合において「良く回る指」という表現は、快活に16分音符を弾ける指 と言い換えられるかもしれません。

しかしここにも「動きの質」があるのです。

「指回り」や「指さばき」のスピードには、筋肉へと伝わる神経の伝達速度が深く関係しています。

そして、神経の伝達速度は、リハビリを根気強く続ければ上げていくことが出来ます。
多くの学生は練習曲や教則本を弾くことでそれを行っていますよね。

しかし、それと同時に
指の滑らかな動きを妨げる動作や、「力ませるべきではない」体の箇所が存在しています。

こういったことは 指回りの良し悪しの原因を、指だけに求めているうちには
絶対に見つけ出すことが出来ません。

 

また、
「なんで舞台の上に上がったときに、突然指が練習どおりに言うことを聞いてくれなくなったのか」

といった疑問を解決することも、恐らく出来ないでしょう。

 

こういった場合に、
ヒントや直接の解決の糸口となる決定的なポイントは 絶対に指にはありません。

言うことを聞かない指を鍛えようと、まるでスポ根ドラマのように100回練習をしたり、
あるいは、考えなしに一日中ハノンを弾きまくったりすることほど、無意味なことはありません。

無意味であればまだいいのですが、
このときに同時に成長し、体に覚えこまれていくものが「悪い癖」です。

ですから、指導者はまず科学的根拠に基づいた「正しい運動」について、
最低限知っており、且つそれを身をもって実践した経験があることが望ましいと私は考えています。

 

まとめ

運動を支えてくれるのが「動きの質」で、
その「動きの質」を精査するのに必要なことが「体についての知識」です。

これは演奏技術を支える磐石な基礎となってくれるものです。

音楽を愛する人に、そして音楽を志す皆さんに、是非知っておいてほしいと私が願うことでもあります。

 


「音楽表現」は、まさに心技体です。

表現したいという 「 があり、
それを現実とするための 「」 があり、
その技が息をするほどに滑らかに 「」 を動かしてくれたときに

「音」が生まれ、そして初めて誰かの心を震わせることが出来るのですから。

 

 

松岡音楽教室
松岡優明(ゆうま)

 

 

 

 

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