耳の使い方に隠された、ピアノ演奏の基礎

耳の使い方に隠されたピアノ演奏の基礎

ピアノ演奏の基礎は耳の使い方と共に学ぶべきであると考えます。

楽器を演奏する上での要素のうちで、「自分の弾いた音をどう聞くか」というのは、
とても大事なテクニックのうちの一つです。

ピアノの場合は、調整された楽器が既に用意されているので、
演奏者に任された仕事は鍵盤を押すところから始まる、
と思ってしまいがちです。

そして実際よく調整された楽器であれば、
その鍵盤を下げるだけで誰にでもある程度綺麗な音が出せます。

粗悪なタッチによる音質そのものが、
ノイズとして表現や音楽そのものの焦点をぼやかせてしまうことは、

そう頻繁にはないかもしれません。

そのためか、多くの教育現場では

1音をどう弾くか
そしてそれを磨くために
耳を如何にして使うか、

といった、ごくごく基本的な訓練をそこそこに、

快速で多くの音を処理することを目標とした訓練へと移ってしまう ことが多くあります。

この記事では、耳の機能を向上させるヒント

そして、それが打鍵に及ぼす影響について紐解いていきたいと思います。

耳は、常に錯覚を起こしている!?

耳というのは、実に巧みで繊細な器官です。

「耳」は、無意識に沢山の音の中から「音」を選び取ります。

そして不必要な情報を「キャンセリング」します。

私たちは、実に巧みに音を聞き分ける能力を携えているのです。

では、演奏における「耳の使い方」

これはいったいどうあるべきなのでしょうか。

耳が錯覚を起こす例

ピアノを使って、耳の錯覚 を体験する簡単な実験があります。

ペダルを踏み、音を一音伸ばし、
手をふわりと空中へ舞わせてみてください。

どうでしょう?
減衰しているだけのはずのピアノの音が

手の動きに合わせて広がったように聞こえませんでしたか?

このように、

耳は視覚的な情報によって、その情報を巧みに操作します。

そして、もう一つ
主に上体が緊張状態にあることで、聞き取る範囲を勝手に狭めます。

その逆に、体の弛緩と供にその機能を向上させ、
  
より広い空間の音に向けて開きます。

この記事を読まれている間にも、アナタの周りには沢山の音が溢れているのなら、
是非この簡単な実験にお付き合い下さい。

肩を思い切り上げ、首を縮めるように硬直させると・・・

周りの音はたちまち小さくなりませんか?

そして、体をいつもの状態へ戻した瞬間

音の聞こえが広がったように感じませんか?

このことはつまり、
演奏者の耳が、無意識的な動きや体の状態によって聞き方を操作してしまえば、

聴衆に届く「音」との間には、確実に誤差が生まれる

ということなんです。

演奏者はまずこの事実を知った上で、
正しい耳の使い方を心得る必要があります。

耳が客観的に音を拾うことが出来なければ、
自分の出した音を正しく認識することは出来ません。

そして、舞台上で自分が出している音を、
聴衆と同じレベルで聞き続けることは出来ません。

「耳を使う」訓練の第一歩は「姿勢」にある
と私は考えます。

姿勢を科学すれば、耳は開ける

正しい姿勢とは具体的にどんな姿勢なのでしょう?

多くの現代人が抱える体の悩みの一つに「肩こり」が挙げられます。
肩こりというのは、慢性的に肩に緊張状態があることで引き起こされます。

肩という大きな筋肉が緊張状態にあることは、
耳の機能を落とすばかりか、演奏に必要な動きにも良い影響を及ぼしません。

ピアノを習っていた人ならば、「肩を上げないで!」なんていう注意を一度は受けたことがありませんか?

肩があがっている状態=肩が緊張している状態

です。

では具体的にどのような姿勢が肩を緊張させてしまうのでしょうか。
それは・・・

「背筋を伸ばしすぎる姿勢」

です。

背筋を伸ばし腰骨をおなか側へ入れると、下っ腹の筋肉は弛緩します。
そのかわりに、体の重心は胸あたりまで押し上げられることになります。

体の重心が上に上がってくると上体の自由は失われ、肩、肘、手首 といった
大きな関節がたちまち硬直します。

これはほんの一例に過ぎませんが、

肩、肘、手首の自由を奪うような姿勢が「良い姿勢」であると考える演奏者は、

まずいないでしょう。

ピアノは決して指だけで弾いているわけではないのです。

指を闇雲に鍛えたところで、
自分たちの体の中へと意識を集中させ、積極的に「気づき」を得ていかなければ、

練習の9割は無駄なものになってしまいます。

このことを心得ているのといないのとでは、
練習の質が大きく変わってくることは言うまでもありません。

ショパンに学ぶ正しい姿勢

ショパンが弟子に禁じていたこと一つに

「肘を外に出す」

という動きがあったそうです。

肘を外に出す動きって、ピアノを弾くときによく見られる動きですよね。
しかし、ショパンはこれを固く禁止していたのです。

何故でしょう。

肘を外に出すということは、
すなわち肘をエンジンのように使い、前腕を上げる ということです。

肘を外に出す姿勢といえば パソコンでタイピングを行う ような姿勢なわけですが、
現代人が肩こりを引き起こす大きな原因の一つが、長時間のデスクワークであると言われています。

このことから証明されるのは、
肘をあげる姿勢というのは多かれ少なかれ、

「肩の筋肉に緊張を伴う」

姿勢であるということです。

⇒解決

ピアノを演奏するときに、肘を内側にいれ、
重心を下っ腹の辺りに落とすように意識するだけでも、
上体はたちまちリラックスします。
そして肩や肘、手首といった大きな関節の自由な稼働が実感できるでしょう。

まとめ

以上のような例は、体に隠された秘密のごくごく一部です。
このほかにも、耳の機能を落とす動きやポジション、

体を硬くしてしまう、体の使い方は数え切れないほど多く存在しています。

こうしたことを学ぶことが不利益であると考える演奏者はいないのではないでしょうか。

しかしこうしたことは、まだまだ一般的に教育現場で取り入れられることは多くないでしょう。

ピアノにおいて、
1音を弾くための基本的な訓練を徹底することは非常に大事なことです。

音質は過大評価されすぎるべきではなくとも、決して過小評価されるべきではない、

というネイガウスの言葉を思い出します。

(ピアノ演奏芸術:ある教育者の手記 ゲインリッヒ・ネイガウス著より)

そして、その1音を弾くためには、意識して耳を理想的な状態に置くことが不可欠なのです。

もし仮にハノンやピッシュナといったテクニックのための基礎教本を生徒に課するのだとすれば、
手の問題はともかくにしろ、
耳だけは良い音質を認識できるような手助けがされていたなら、

その練習はどんなに良くなることでしょうか!

しかし、もしそれが徹底して教えられなければ、
テクニックにおける指針、そして練習における指標、その100%を生徒自身が模索することになります。

手を傷める学生も勿論出てくることでしょう。

そしてある程度音が並べられるようになった段階で、

音の良し悪しは生まれつきの才能である

などと言われたりもするのです。

「美しい一音」と向き合うことは、自分自身と向き合うことです。

ある一つの視点から見た「正しいこと」と、
徹底的に向き合い学ぶ、こうした経験こそが私たちを育て、
やがて広い世界においても通用する自然の真理と豊かな想像力を育むのではないでしょうか。

松岡音楽教室
松岡優明(ゆうま)

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耳の使い方に隠された、ピアノ演奏の基礎” に対して1件のコメントがあります。

  1. Thanks, it’s quite informative

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