1音目で「守り」に入ってしまった経験はありませんか?
演奏を始める第一音目というのは、
うっかりすると様々な思考が邪魔に入って来てしまうものです。
そこで極度に失敗を恐れたり、しなければいけないことを「頭を使って考えすぎてしまうこと」で、体が硬直したまま演奏をスタートさせてしまいます。
体や意識というのは、
連続性を持っているために、ある一つの動作をきっかけにしてそこからどんどんと体の使い方が崩れていってしまうものです。
1音目における意識の持ち方が、
その時のその楽曲の演奏の全てを決定してしまうといっても過言ではありません。
多くのスポーツ選手が、
スポーツ科学で実証されたデータを基に、体の使い方を学び、実践し、
メンタル面をコントロールするようなトレーニングを、
トレーナーの下で平行して行うのに対し、
私たち音楽家は科学的なアプローチや学術に基づいた有益な情報を、
「直接音楽的な良さには結びつかない物」として軽視してしまうことが多く見られるように思います。
そうでなくとも、
ピアニストにおけるあらゆる練習は、おおよそ独りで行われます。
もちろん、演奏において一番大切なものは、「音楽」であり、そこで表現される「内容」であることは確かです。
しかし、少なくとも演奏動作に直接的に関わってくるような筋運動、
それを引き起こす時の意識
などについての理解が、必ず私たちの演奏を根本から支えてくれると思うのです。
「知識」は「思考」に繋がり、
「思考」はある目的において正しく行われることで、確実でに求める「結果」に繋がっていきます。
ショパンは「解剖学」関してのに深い知識を持っていたと言われています。
ショパンが生み出した、現代ピアノの合理的な奏法、そしてそれに基づく独特の指使いは、それまでの一般的なピアノ奏法とは一線を画するものでした。
手のポジションを一つをとっても、
学術的なアプローチは音楽を志す私たちにとっても、非常に大きな助けとなるものであります。
ほんの少しでも多く、
私たちが自分自身の体の中で起きていることへと、より敏感な視線を向け、
体の中で起きていることを、一つづつ体験し感知していくことで、
「演奏を形作るもの」
について確実に把握できるようになります。
そうすれば、
1音目を弾く前に考えなければならないこと、あるいは、しておかなければならないこと
が自ずと見えてくるようになるものです。
松岡音楽教室
松岡優明