#2 ショパンエチュード研究 シリーズ第一回「黒鍵」(2)
まず始めに旋回の動きで弾くときに難しい箇所があります。
この4-2-4で弾く「ソミソ」です。
2の指というのは手の中心にあるため、
1-5のように手首の旋回は容易にはなりません。
また鍵盤の幅も近いために、この2を指で弾いてしまいたくなります。
しかし、
ここを指で弾いてしまうと、
それをきっかけにして、前腕の筋肉で指を独立して動かし始めてしまいます。
するとたちまち肘が堅くなり、指をバタバタと動かすようになってきます。
すると音はまるで音程が低くなったように響きを失ってしまいます。
この箇所を乗り越えられたならば、この曲における旋回の動きの困難は7割クリアしたと言えると思います。
このように、ソを打鍵するときに、意識して小指側へ大きく腕を回すようにしましょう。
これが、指に合わせて旋回の動きを調整する一番良い例かもしれません。
ゆっくりと手を柔らかくして練習することで、すこしづつ感覚を掴み、
その感覚が変わらない範囲内でテンポを上げていくようにしましょう。
それでも2の指が浮いてしまうときには、鍵盤の表面より約一センチ下の鍵盤の底をぴったりと狙うように手首を旋回する癖をつけるような練習をするのがよいでしょう。
この、底をぴったりと狙う感覚はいつでも役に立ちます。
鍵盤の表面ではなく、底までを責任を持って打鍵にしましょう。
このように弾く鍵盤を反対の手で鍵盤を押さえながら、ゆっくりと手首の旋回で指先を着地させてみると、
底までの距離を体が覚えてくれると思います。
この底の距離感を掴む練習は、あらゆるシーンで効果的なのでオススメです。
鍵盤を底までピッタリ着地する訓練は、着地後にそれ以上力を加えないためにも重要です。
鍵盤は底につけばそれ以上下がらないから、というのをいいことに、
確実なタッチを容易に得ようと底を突くように打鍵する練習は良い音質には決して繋がりません。
また、このエチュードの右手における幾つかの難所は、
譜例1)
譜例2)
こういった広い音程を素早く移動する箇所ですが、
決して跳躍と考えず、あくまでも手首の旋回を使い、
このように手首から長く伸びた小指が鍵盤を斜め上から打つように打鍵しましょう。
手首の旋回は、はじめのパッセージと同じ要領です。
音域が広かったり、狭かったり或いは同音上で旋回しなければならないときに、
ショパンの意図する柔軟な手
について誰もが考えなくてはならないでしょう。
決して物理的な最短距離を狙って下から上に抜けるような打鍵にならないよう心がけてみてください。
こうすることで歌うようによく響く発音が得られます。
小指の音はいつでもよく歌うように、
下からではなく、このように斜め上から打鍵します。(譜例1)
ここでもゆっくりと手を柔らかくて練習してみてください。きっと感覚的な発見があるででしょう。
譜例2)に見られる5-4-5
の指使いも、トリルではなく、手首の旋回によって演奏する意識を忘れずに。
上の5の指(ミ)から1の指(レ)への旋回の過程に4の指(レ)を通過するイメージです。
続いて言及したいのは以下の箇所についてです。
この箇所では、しばしば手首をショパンの意図する動きとは逆に腕を回すような弾き方がされがちな箇所です。
上昇型は手首を鍵盤の下に潜り込ませるような半時計周りの動きではなく、
時計周りの動きを意識することで、全ての音において豊かな響きを獲得することができます。
下降型は半時計回りになります。
柔軟な手首がバイオリンの弓のように鍵盤の上に弧を描くように滑らかに円を描きながら、2、3といった長い指をこのように鍵盤に順番に触れるようにして演奏します。
下から潜るように弾いてしまえば、どんなに小さくても音が鐘のように響くことはありません。
指の最短距離を取ろうとは決して考えず、すべての音の音程を高めに取るような意識をして、曇りのない明るい音色を聴くようにしてみてください。
自ずと手の使い方が変わってくるでしょう。
もちろん、左手についても言及しなければいけません。
これは冒頭の左手です。
真ん中のソドミソの和音はドミナントですが、
3の指のポジションが白鍵の細い部分にくるため難しく、そのまえのトニックに比べて音が曇ってしまうことが良くあります。
これを解決するためには、
こういった箇所においても、
一貫して虫様筋で、指を前に倒す動き、もしくは支えと手首のエレベーターで演奏することです。
虫様筋を使うことに慣れてくれば、どちらでも演奏することができるでしょう。
いずれにせよ、
音を確実に当てようとして、
指先を鍵盤に食い込ませてしまえば、
たちどころに音は曇り、
もはや強打することにより音量を上げる以外の方法は見いだせなくなってきます。
このような打鍵にならないためには、
繰り返しにはなりますが、、、
指先の意識を捨てることです。
指先の意識を捨てることにより打鍵の難易度は多少上がるかもしれませんが、これは一時的なものです。
どんな弾き方であれ、
最終的に打鍵を助け、音に色を与えるのは、
音に対する「イメージ」
のみで、それのイメージを持つことこそが、適切な体の使い方を見つけだす唯一とも言える手段なのです。
手首から伸びたバチは、その根本からしか力を加えることは出来ません。
ロシアンメソッドにおいては指も、
これと同様に扱います。
また、この冒頭でもう一つ難しいのは、
右手と左手のバランス
です。
このようにリズミカルで厚いハーモニーは存在感があり、演奏するときには、うっかりと意識を奪われてしまったりします。
するとたちまち右手の音は意識が奪われた方の左手に飲み込まれてしまいます。
その様にして、右手を殺さない為には
頭の中にオーケストラをイメージすることが助けになるでしょう。
自分はあくまでもソリストとして右手のパートを担っている、
そして少し奥まった場所から左手の伴奏が聞こえてくるようなイメージです。
私たちは確かに両手を同時に自分で弾きます。
しかし意識の上では自分で弾くのではなく、聴くだけに留めるとよいでしょう。
そうすることで、
右手と左手に然るべき距離感が生まれ、聴いている人の耳には優先して聴かせるべき音が真っ先に飛び込んでいくようになるでしょう。
音のバランスは常に
距離感
としてコントロールします。
これはホモフォニックな楽曲の演奏にあたり、とっても有益なイメージの仕方です。
音の立体感
は音の強弱という概念からは決して生まれてきません。
次に旋回の動きしながら重音を弾かなければならない、この箇所についてです。
この箇所を難しく感じる人もいるかもしれませんが、その原因は上の三度を同時に弾こうとするあまりに、肘が固まってしまうためです。
あくまでも5の指と連動して、3(若しくは4)の指を使うことで、問題は解決します。
この様に虫様筋を使い指を倒したポジションをとって弾くようにしましょう。
親指から5の指への旋回は常にオクターブポジションですので、手を柔らかくするようにゆっくりと練習すれば、
そこまで困難ではないはずです。
アクセントが付いていますので、旋回の動きに手首のエレベーターを組み合わせ、音が煌めくように弾くのも良いでしょう。
是非試してみて下さい。
今後も引き続き追記を続けていく予定ですが、第5番「黒鍵」はひとまずこの辺りで終了とさせて頂きます。
第2回である次回は 「第1番」 を取り上げたいと思います。
お楽しみに、、、!
松岡音楽教室
松岡優明
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