#6 ショパンエチュード研究 シリーズ第三回 作品10-3 (1)

ショパンエチュード研究シリーズ第3回(1)

ショパンエチュード研究のシリーズも第三回となりました。

今回はかの有名な 「別れの曲」 について考察していきましょう。

ショパン自身が、この作品10の3番目にあたる「別れの曲」について、

わたしの一生で、これほど美しい歌を作ったことはありません

と発言したエピソードはあまりにも有名でしょう。

さて、

このようにゆっくりとした楽曲では、
勿論急速な楽曲に比べると流れる時間の中に詰め込まれる「音の数」は少なく、

それに伴うようにして1音の役割

そしてその1音が聴いている人に与える効果

も大きくなります。

引き伸ばされた時間の中で、伸びゆく1音というのは、
圧倒的な存在感を持っている、と強く感じます。

そんな1音の前では、
打鍵のテクニックは勿論、
心の機敏、そして感情の隙間も充実も
もはや何一つをも誤魔化すことはできないでしょう。

そして演奏を聞けば、今演奏者に起きていることの全てを

誰もが詳らかに感じとることでしょう。

ではこのエチュードを演奏する時の、

正しいテクニックの在り方

とは一体何でしょう。

ピアノを歌わせる技術

ピアノのように、

音の減衰をともなう楽器で息の長いフレーズを

豊かに歌わせる

ためには、良く伸びる音 が不可欠です。

そしてその良く伸びる音と音の間を、
果たしてどう意識すれば、
旋律をまるで美しい歌のように聴かせることが出来るのか

を心得ておく必要があります。

この練習曲は練習曲というだけあり、
多くのノクターンに代表されるようなショパンのゆっくりとした曲に比べると、

テクニック的にもハードルの高いものとなっています。

まず、基本的には片手でメロディーを弾きながら同時に内声で伴奏系も担当しなければいけない、

そして中間部の重音によるパッセージも、手の動きを効率的に学ぶことができるような音型
が盛り込まれています。

楽曲は音楽的な充実と相まって、

練習曲としてピアニストに課すには十分すぎるほどの内容が詰め込まれているといえるでしょう。

ピアノを歌わせる「技術」

これは、ショパンに言わせれば「音にニュアンスをつける技術」
であります。

グランドピアノの仕組み の記事内でも、ピアノは音の減衰を常に伴う楽器 であり、
その音の内容は、「ハンマーが現に触れる瞬間」にそのすべてが決定すされる、
ということに触れました。

しかし、常に時間と供に流れる音楽のなかで、
その打鍵のタイミング、発音の瞬間を待ち構えるようにして「停止」することは不可能であり、。

正しいタイミングで正しい鍵盤の打鍵に成功したとしても、
そのために「停止」 を伴うこととは、

「音楽の死亡」を意味します。

正確な打鍵を求めるあまりに一瞬を凝視し、
空間の響き全体、そして流れる音楽俯瞰から見つめる視点  を失ってしまったのでは、

その間のすべての打鍵は、失敗に終わったに等しいと言えるでしょう。

「発音」とは、いつも流れる音楽、そしてそれに連動するようにして起こる、
連続すした体の動きの中 にあります。
豊かな色彩感を産むタッチは、「打鍵の前後」にこそ存在しているのです。

「別れの曲」~この練習曲の目的~

ピアノを歌わせる事

である事に異論はないと思いますが、

わたしは、ピアノを歌わせるために必要な「打鍵方法」を学ぶこと こそが、

この楽曲を学習する人が本当に達成するべき目標であると考えます。

それは、重音でおいても尚、

  • 手のポジションを正しくとること

そして

  • 短い二つの指を正しく使うこと、

    ↓つまり

  • 親指と小指を動かす 筋肉を正しく選択すること

であると考えます。

親指と小指の使い方は、
それまで一般的であったチェンバロの奏法に由来しているような、いわゆる「指弾き」と
ショパンの提唱していた

「指を使わない弾き方」

では、動かし方が完全に異なります。

指を使わない弾き方

ピアノを弾くのに指を使わない?!

これはあまりにも逆説的に感じられる方も多いかと思いますが、

ピアノを弾くためには指先の稼動は勿論不可欠です。

しかし、その動きのためのエンジンをどこに置くのか、
が大きなポイントであり、あらゆる奏法を区別する「肝」であるのです。

指先を鍵盤に向けて下げる動き

これをどうやって起こすのか、ということなんです。
「指を下に下げてください」

といわれれば、

指だけを下げようとする人がほとんどなのではないでしょうか。

しかし、指を下に下げるために
「手首を上に上げる」

手段をとることも大いに可能なはずなのです。

ショパンの提唱した奏法の重要なポイントは、
これはピアノを弾くためのあらゆる動きのための
エンジン を手首に置く

ことであり、これがすなわち「指を使わない」 ピアノ奏法であるわけなんです。

このために考案された手のポジションこそが
「鍵盤に水平に構えるのではなく、すこし外側に倒れる形」

であり

ショパンが弟子に固く禁じていた
「肘を上げたり、外に出したりする形」

であったのです。

こうした、奏法は当時としては極めて異端でありました。

しかし、これは解剖学に精通していたショパンならではの、

「極めて効率的で合理的なピアノメソッド」

であり、この奏法こそが後に伝承されることとなった
ロシア奏法 の一つの源流であるのです。

それでは楽譜を見ながら、

このエチュードを見ていきましょう。

#7 ショパンエチュード研究 シリーズ第三回 作品10-3 (2)

へ続きます。

松岡音楽教室

松岡優明

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